これからの時代に必要な力とは
text by Yuko Kohga
2020..4.20混迷の時代に⽣きるということ
「まさかこんなことが起こるなんて・・・」誰もがそう思った筈です。
コロナは資本主義への挑戦である。という声が世界中のエコノミスト達からも叫ばれるようになりました。
未曾有の危機の中、効率化を図ってきたこれまでの価値が⼤きく変わりはじめています。⽬に⾒えないものとの戦いをはじめ、資本主義の在り⽅、⼈種差別、環境破壊、⺠族紛争。社会が進化し、テクノロジーがどれだけ発達しても社会を覆う問題は解決せず、混迷を極めています。
今回の新型コロナウイルス感染拡⼤問題はまさに、VUCA(ブーカ)の時代を象徴する出来事です。
VUCA とは、Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)という 4 つの頭⽂字から取られた⾔葉で、これら四つの要因により、現在の社会経済環境がきわめて予測困難な状況に直⾯しているという先が⾒えない時代を象徴するキーワードです。
「Volatility(変動性)」 … 現代はイノベーションが次々に⽣まれ、古いビジネスがすぐに衰退していく時代であるということ。今までのシステムが崩壊し、新しいシステムを導⼊せざる得ない状況となっています。
「Uncertainty(不確実性)」 … 世界規模で増している昨今のパンデミックリスクも、不確実性を加速させています。
「Complexity(複雑性)」 … グローバル化によって経済が世界規模で複雑に絡み合っています。
「Ambiguity(曖昧性)」 … ITやAIが進化することで、「ビジネスにおける業界や肩書きの区分」がとても曖昧になっています。
混迷な時代において、ただ論理的で理性的であろうとすればするほど、問題解決はより困難になり、創造⼒が働かしにくくなります。
不確実な時代を⽣き抜き、テクノロジーの⽀配からの解放、またはテクノロジーとの共存・協働には、全体を直覚的に捉える感性と、本質を⾒抜き、対外的に起きている事象を内省的に創出する構想⼒や創造⼒が求められることになります。 それには、アートやデザインの⼒がとても重要となってくるのです。
しかし、⼀体アートやデザインとは何なのでしょうか。
また、それらのことを通して⾝に付く⼒とは⼀体何なのでしょうか。
アートとデザインとは
MIT、RISD とアメリカの名⾨⼤学で教授、学⻑を歴任してきた国際的グラフィックデザイナーのジョン・マエダ氏。 ジョン・マエダ⽒はこう語っています。「アーティストが⽣み出すのは『問いかけ』であるのに対し、デザイナーが⽣み出すのが『解決策(答え)』である」
Whyを考える、この世はどのような課題を抱えているのか、なぜ存在しているのかを表現しているのが、アートです。
⼀⽅でその課題に対して、どのような解決策があるのかを考える、Howを考えるのがデザインになります。
今までのビジネスにおいて重要視されてきた能⼒は論理的思考や課題解決能⼒でした。
前述したように、不確実性の時代に対応するには創造⼒が求められるのです。
⼈類の発展史の中で、アート・サイエンス・テクノロジー・デザインという 4 つの分野は⾮常に重要な発展要素となってきました。
ビジネスの発展においても同じく、それら4つの要素はそれぞれが相互作⽤していると考えます。
しかし、今までビジネスにおいて重要視されてきたのは左脳的アプローチで、ロジカルに問題提起し、そしてそれを解決することでした。
しかし、左脳的なアプローチだけでは総合的バランスを⽋いているのです。なぜなら、各領域には、専⾨性に応じた役割があり各領域は独⽴しているわけではなく、循環しながら新しいモノ・コトを創造するからです。
アートやデザインは右脳的アプローチで、感性に基づき問いを⽴て、問題解決に導く⼒となります。
現代⼈に⾜りていないのは、
アート思考>デザイン思考>ロジカル思考(左脳的思考)であって、
どれが⼀番ということではなく、ここで重要なのが、全て⽋けていてはいけない能⼒だということです。それぞれテーマの⼀側⾯に注⽬するだけでは、新しいモノ・コトを⽣み出すことは難しいのです。
それには、今まで教育や社会で習得することが難しかったアートとデザインの分野の重要性や、創造⼒を⽣み出すことに不可⽋であるアートとデザインの⼒が重要となる訳です。
全体を直覚的に捉えることのできる「本質を⾒極める⼒」と、「創造⼒」は 右脳と左脳のコミュニケーションから⽣まれると考えています。
問いかけから始まり、答えを導き出すことが「創造する」ということなのです。アートは、「クリエィティブクエスチョン」であり、
デザインとは、「クリエィティブソリューション」であります。
デザイナーは⾃分の外側にある課題と向き合い、
アーティストは⾃分の内側から湧き上がるものに向き合います。
デザイン思考(ここでは⼿段と考えます)は問題解決⼿法、
アート思考は問いを⽴てる⼒なのです。
本質を⾒抜く⼒とは
アートとデザインが重要だということをお話ししてきました。しかし、あともう⼀つ重要な事となってくるのは「本質を⾒極める」ということです。
「Authenticity(オーセンティシティ)」は、 「真実であること」「ほんものであること」を意味する⾔葉です。
コロナ渦の中でジョルジオ・アルマーニ氏が語った⾔葉があります。
アルマーニ氏⽈く、「オーセンティシティの価値も、これを機会に取り戻したい。ファッションをただコミュニケーションの⼿段として利⽤したり、軽い思いつきでプレ・コレクションを世界中で発表したり、やたらに⼤掛かりで派⼿なショーを開催したりするのはもう⼗分だ。意味のない⾦の無駄遣いであり、今の時代には不適切な上、もはや品のない⾏為に思える。」と語っています。
「オーセンティシティ」はとても翻訳しづらい⾔葉で⽇本語には完全に同じ概念がないもので、 「本物らしさ」「⾃分らしさ」だけでは⾜りなく、「⾃分らしさ」を充分に⾃覚して、それを体現していること、という意味を含むからです。
アフターコロナに「オーセンティシティ」が問われ、より本質が⾒直される世界になるでしょう。
何を取捨選択し、私たちはどう⽣きていくべきか。
学校教育では教えてくれない、まさに現代に⽣きている我々、特に⽇本⼈はその部分について如何に⾃問⾃答を繰り返してこなかったかを⾃覚することから始めなくてはいけないと考えています。
⾃分の⼼の内、意識を向けること、⼰の声を上げることを嫌でもしないと、これからは⽣きていけなくなるのです。現実を⾒ようとして⾒ないふりは、もう出来ないのです。
アートやデザインのプロセスは、⼰の考えや環境の事象に対し内省的に創出しないとできないことなのです。
「⾃分だけの物の⾒⽅で世界を⾒つめる。 新たな問いを⽣み出し、⾃分なりの答えを⽣み出す。」
それが本質を⾒極める⼒だと⾔えるのではないでしょうか。
創造するためにまずは⼰を理解することからです。本質的な叡智を⾝につけることと同時に、「⾃分⾃⾝が本質に返っていく」ということが最も重要で、本来の⾃分らしさを理解し、それを世の中に発揮していくことが、全ての⼈にとって重要なミッションであるとも感じています。
思考法ではない在り⽅
デザインやアートの本質は思考法だけではないと考えます。
なぜなら、考えることをせずに考える⼒を信⽤している⽭盾が⽣じているからです。
実際にやってみる“体験”の中での気づきやプロセスこそに本質的な価値があると考えていて、主に体験としては「作品制作による⾃⼰表現、実際に⼿などを動かすなどして制作する⾝体的体験」「作品制作、鑑賞を通して気づきを得る哲学的体験」と⼤きくはこの2つに分けられると考えています。
ADEAのプログラム(体験の中)で⼤切にしていることは、
・新しい視点
⼈が成⻑する過程で教育された認識の再構築 → 新しい発想やイノベーションのためには裸眼のような眼が必要であり、習慣や癖を取り外すことが必要です。⾃分と社会(環境)の間を疑い、認識を再構築することをプログラムを通して体験してもらいます。
・五感による知覚
⾃分の感覚を信じ、それを想像(創造)し、表現できるトレーニング。
・イメージアウトプット
⾃分が感じたイメージや直感を理解し、想像⼒を膨らましながら思考を形として表現できるトレーニング。
・アイデアが⽣まれる瞬間
ものを作る上で、必ず⽣み出される瞬間は何か⼼を動かされることがあり、それに執着するプロセスへと移⾏します。その問いに対し、徹底的に突き詰めること。⾔葉には収まりきらない、これまでにない思いを表現するために、その感覚に向き合うことを重要視しています。世の中に⽣み出すからには必ず「責任」が⽣じるのです。向き合えば向き合うほど、⽣み出した意味にも向き合い、その責任が⾃ずととれるのです。
そして、最後に必ずクリティーク(講評会)を⾏います。
ただ、⼀⼈が評価や講評を決めるのではなく、必ずそこに参加している全員がお互いを講評してもらいます。
作品を⾒て、「どこからそう思ったか?」と「そこからどう思ったか?」この2つの問いを軸にディスカッションしていきます。
「どこからそう思う?」は、主観的に感じた意⾒の根拠となる「事実」を問うものです。
⼀⽅、「そこからどう思う?」は、「事実」から主観的に感じた「意⾒」を問います。
この問いを繰り返す事で、物事に対する理解や共感、従来⾃分だけでは気が付かなかった
観点が相互に⽣まれ、常識への問いが⽣み出される⼟台になります。
アートとデザインを通して⾝に付く⼒とは
・本当に重要なものを⾒極める⼒
これからは⾃らが⽴つべき座標軸を確認し、どこへ向かうべきかの⽅向感覚を持つことが必要となります。視界不良な時代にこそ、未来の⻘写真を描くことが重要です。
アートやデザインを通して、「⾃分だけの物の視点で世界を⾒つめ、新たな問いを⽣み出し、⾃分なりの答えを⽣み出すこと」を繰り返すことで、本質を⾒極める⼒を⾝につけることができるのです。
・「⾃分らしさ」を理解し、それを体現する⼒ = メタ認知能⼒
今までは、早く結果を出すことが良しとされてきました。 システムに適応するということと、より良い“⽣”を営むというは全く違います。 変化の激しい状況でも継続的に成果を出し続けるリーダーが共通して⽰すパーソナリティとして、セルフウェアネス=⾃⼰認識の能⼒が⾮常に⾼いとされています。
「メタ認知」とは、“⾃⼰の認知活動(知覚、情動、記憶、思考など)を客観的に捉え、評価した上で⾃分の意識を制御すること”を意味します。
アートとデザインを通して、「⾃⼰認識、すなわち⾃分の状況認識、⾃分の強みや弱み、⾃分の価値観や志向性など、⾃分の内側にあるものに気づき、システムや評価とは別の物差しで評価できるメタ認知⼒」が養われます。
・集合意識、時代を読み取り伝える⼒
優れたアート作品やデザインは、想像⼒が及ぶギリギリのところにある別世界に対して⾃分と同じだと共感する機会を与えてくれるものです。それらは、⽂化、⼈、感情、⾏動、ニーズについても戦略を⽴てていると考えてもいいでしょう。
これからは、⼈の承認欲求や⾃⼰実現欲求を刺激するような感性や美意識が重要となり、優れた創造的なものを⽣み出す上では必要です。
アートとデザインを通して、個の意識でなく(いかに⾃意識を消しながら)「集合意識や時代を読み取り、その感覚を表現(アウトプット)していく⼒」を養います。
アウトプットする⼒とは、「レトリック能⼒ = 抽象化し伝える⼒」、すなわち「メタファー」のことであり、⾃分たちの住む世界を観察し、受け取る側が理解できる⾔葉で表現する⼒です。
抽象化は有効的に活⽤することで、とても伝わりやすい効果的ものとなり、共感が必要な他者と⽣きる時代には抽象化は避けて通れないのです。
・問いを立て、オリジナルの答えが出せる力
シンギュラリティが到来しても⼀つ⾔えることは、世界観とストーリーは決してコピーができないということです。反対に⾔えば、⾔語化できるものは全てコピーできるということです。
創造性や感性から⽣まれた「オリジナルの世界観やストーリー、そして答えが出せる⼒」は唯⼀無⼆の価値となります。
感動を⽣む⼒はその価値が⼗⼆分に発揮された時です。これからの創造の時代にはこの⼒がとても重要になると考えています。
創造の時代へ
“The best way to predict your future is to create it.”
未来を予測する最良の⽅法は、未来を創ることだ。
―Peter Drucker
⼼と⾁体が切り離せないように、⼈と環境は切り離せません。
従うべきものがないなら最終的に信じるものは⾃分⾃⾝なのです。
個の競争から共⽣、多様性の時代へ。効率化から、創造の時代へ移⾏しました。
アートやデザインから通して得る⼒は、存在を理解するための基盤なのです。
常識や正解にとらわれず、⾃分の内側にある「興味」を元に、「⾃分の物の視点」で世界を捉え、⾃分なりの「探究」をし続けることが⽋かせないのです。
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